刈馬演劇設計社PLAN-12 LOFTセレクションvol.2『フラジャイル・ジャパン』
プレイベント『悲劇の街を観光すること』
イベントレポート
刈馬演劇設計社とナビロフトの共催公演、『フラジャイル・ジャパン』が5月17日(木)~27日(日)の2週にわたって行われる。それに先立つ4月16日(月)、本公演と同じ会場であるナビロフトにてプレイベント『悲劇の街を観光すること』が開催された。
本編戯曲リーディング:左から、今津知也・元山未奈美・刈馬カオス・まとい
イベントは、本編戯曲一部のリーディングから始まった。
『フラジャイル・ジャパン』は、9年前に起こった災害によって多くの命が奪われた小さな街が舞台、負の遺産を活用した観光地化計画(ダーク・ツーリズム)に揺らぐ街の人間関係が描かれる。上演は、プレイベントだけの特別キャスティング。本編キャストの元山未奈美、まといに加え、本編の演出と脚本を手掛ける刈馬カオスが重要な役柄を熱演、さらにト書きは今津知也が担当した。
本公演と同じ空間で行われたリーディングは、まさに観客の想像を掻き立てるものとなった。
リーディング上演が終了すると、観光学の専門家・林大策氏と刈馬カオスのトークに移った。
林氏は、震災から半年後、釜石市で被災した知人を訪ねて被災地を観光。その後、仕事で知り合った映画監督・堤幸彦氏から声をかけられて、名古屋市と気仙沼市を繋げる活動を開始した。現在は愛知淑徳大学交流文化学部の教授を務め、年に3回ほど被災地の気仙沼市を訪れている。
――― 思い出したくない。だけど、なかったことにはしてほしくない。
震災によってダメージを受けた建物などの『負の遺産』を残すべきか、取り壊すべきかを論点にトークは進められた。
林氏が訪れた気仙沼市でも、津波で街にまで打ち上げられた大型漁船を残すかどうかについての議論があったという。
林氏が自ら受け持っているゼミの学生に意見を聞いたところ、震災を語り継ぐために
残したほうがよいと多くの学生が述べた。
林大策氏(左)と刈馬カオス(右)によるトーク
しかし、実際に現地でボランティアをし、「自分の家族を轢き殺したその船を見るたびに震災を思い出して辛い思いをする」と語る人々に出会い、学生は何が正解であるのかわからなくなったそうだ。
本作の題材となった大川小学校では、被災した旧校舎を取り壊してほしいけどそこに新しいものを建ててほしくないという遺族の意見があった。「思い出したくない。だけど、なかったことにはしてほしくない。」という被災者の複雑な感情は、外部の人間ではなかなか計り知れない。
一方で、林氏はたくさんのチェーン店や集合住宅など、一刻も早く復興するために画一化された街並みを見て、「本当にこれでいいのか。」、「流された船があるほうがまだよかったのではないか。」という思いが浮かんだと語った。
林氏が被災地を訪れるなかで見て聞いてきた話を受けて、刈馬は、「人間は忘れていく生き物、モノを残さずに語り継いでいくっていうのはかなりのんきな話ではないかと思う反面、被災者の感情を考えなければいけないとも思う」とトークを締めくくった。
本編出演者から林氏への質問など
イベントの最後には、本公演の台本が当たる抽選会が行われた。この台本は稽古の裏話などが書かれている、非売品の演出裏話メモ付き特別台本だ。刈馬がくじを引き、プレイベントにご来場のお客様3名へのプレゼントが決まった。
リーディング・トーク・抽選会と盛りだくさんのプレイベント『悲劇の街を観光すること』は盛況のうちに幕を閉じた。